上野動物園の東園から西園へ向かうイソップ橋は、最後の部分が180度カーブを描いて不忍池に向かって降りていく構造になっています。このカーブの中央にはケヤキの大木がそびえており、そこにカナダヤマアラシが棲家を構えています。枝からジャンプしないという習性を生かし、屋外に生えているクスノキの樹上で飼育できることを事前に1年以上確認したうえで、今年の春にこのケヤキに引っ越してきました。おいしいケヤキを食べつくして枯らしてしまうのではないかという一番の心配も杞憂に終わり、来春には新芽を吹いたケヤキにヤマアラシの姿を見ることができそうです。お客様には、木登りに適した鋭い爪や、とげとげの身体を目の前で見ていただくことができ、また彼らにとっても、不忍池から吹く風でゆらゆらと揺れるケヤキの枝先で、暑い夏を快適にすごすことができたように思います。
1983年に来園した2頭のホフマンナマケモノは、4年前まではずっと室内で飼育されていました。試行錯誤を重ねた結果、一部暖かい場所を作ってやることで冬の寒さもしのげることがわかり、屋外で飼育することで毛並みもよくなり、食欲も増すことが確認できました。今年に入って、かれらの10kg近い重さに耐えかねて放飼場を囲う魚網は部分的に破損が激しくなってきました。この穴は、彼らにとってかっこうの脱出場所であり、担当者の目を盗んで外に出ることは、彼らにとっては最高のエンリッチメントでした。そこで、改修にあたり、網の一部を穴のあいたアクリル板にし、外のイチョウの木へあえて自由に脱走できるようにしました。懸垂で移動するナマケモノは、横枝のない太い幹からは下に降りることができないため、木の周りに囲いは必要ありません。行動範囲が広がったことで、ナマケていない素早い動きと経路をすぐに覚える記憶力の高さを再認識させられました。お客様にも、網越しに近くで見るナマケモノより、10m先にいる同じ空間のナマケモノがとても新鮮に映るようで、発見の喜びで今日も歓声があがっています。
今回、かれらの習性を生かした展示を模索しながら進めてきた結果、エンリッチメント大賞特別賞という思ってもみない賞をいただき、本当に感謝しております。かれらの生活を豊かにできたかどうかは果たして永遠の謎ではありますが、見るもの接するものにとっては、多少なりとも心が踊る展示ができたのではないかと思っています。ありがとうございました。
(文責 細田孝久)