ジャージー動物園訪問記
    (千葉市動物公園協会発行 「どうぶつこうえんニュース」2001・4号)
 フランスにほど近い、 イギリス領チャンネル諸島の「ジャージー島」に、ジェラルド・ダレルが築いた小さな動物園があります。ウシのジャージーという品種はこの島の原産ですし、中高生が学校で身につける「ジャージ」は、ジャージー織りといって、やはりこの島で開発された織物が元になっています。
 というわけで、意外に私たちになじみの深い島だといえましょう。
 私は、1995年の夏と2001年の春、2どこの島を訪れています。95年は、この動物園に隣接する「国際トレーニングセンター」でのサマースクールに参加。たくさんの野生動物保全にかかわる若い人々の活動を支援するためのプログラムです。2001年は、ロンドンの大英博物館や大きな美術館を訪れた際に、ついでに立ち寄ってみたというわけです。

エキサイティングな挑戦
 ジャージー動物園の魅力は、何と言っても、「常に先を見通した挑戦がある」という点です。たとえば、モーリシャス・南米・マダガスカルといった、見過ごされがちな、しかし独自の進化をとげた動物相に着目して、その動物相の中でも絶滅の危機にある種の繁殖を動物園で試みて、野性に返す仕事を続けています。キツネザルの仲間・アイアイ・モーリシャスバト・ゴールデンライオンタマリンなどはその代表種です。また、国際トレーニングセンターの活動は、ニューヨークの野生生物保全協会(WCS)がここ20年ほど力を入れている保全教育プログラムにも先だって、70年代からずっと継続的に行われているものです。このセンターを卒業して、それぞれの国で野生動物保全に携わる人々は、数百人に登ります。
 95年にオランウータンの展示施設をみて、その飼育環境だけでなく、教育的メッセージが伝わるような工夫のなされた展示館に、本当にびっくりしましたが、昨年はもっとびっくりしました。ワウワウとの同居に踏み切っていたのです。オランウータンの家族とテナガザルの家族は、互いにトラブルもなく、悠々とブラキエーションをしたりアカンボウの世話をやいたりと、実に楽しげでした。展示館にも手が入れられていました。写真を使った解説とイラストを使った解説ではどちらがより利用されやすいかを調べたり、解説パネルの内容と方法の更新も計画されていました。いったん作ってしまえばそれで終わりということではないところが、この動物園の大きな魅力なのです。
 少し奥まった場所は、元々湿地でしたが、そこの自然を復元してたくさんの虫や魚を呼びもどし、その自然の中でハゴロモヅルなどの繁殖を試みていました。ここは同時に、園で使用した水のリサイクルセンターともなっています。

 メッセージを伝えるために

 また、園のなかほど、エデュケーションセンターでは、毎日、数学級の子どもたちへの、楽しいプログラムが行われていました。これは、ここ数年の間に行われるようになり、ジャージー島の小学生すべてを対象にしているとのことです。パートタイマーとボランティアの助けも借りて、エデュケーションセンターの活動はとても活発です。
 センターの一角には、ダレルが生前愛用したフィールドノートや双眼鏡、標本ケースやビンなどが展示されていて、自然をこよなく愛したダレルの姿が目に浮かびます。
 そして、何と言っても2000年にオープンした「ファーストインプレッション」という施設は圧巻です。動物園の入り口を入るとすぐ左手にこの施設があり、来園者はまずそこで南米のメガネザルとハナグマに出会うこととなります。
 部屋の中と外をすばしっこく走り回り、ロープを伝い、あちこちに仕掛けられたえさを探すハナグマの様子や、仲間と遊び会うメガネグマたちの仕草にみとれながら、映像やパネルで紹介されるジャージー動物園の役割や目指すことについて、ここで知ることができるのです。実際の南米産動物の展示が、南米における保護プロジェクトの紹介と重なるようにして、この動物園の目指すことが示されています。
 実は、ジャージー動物園は全くの施設で、その収入は「入園料40%」「寄付25%」「財産収入20%」「会員料(トラストの会員として登録してこの動物園と諸活動を支える)10%」であり、支出のほとんどは、動物飼育を含む管理費と教育活動費や広報費用、そして海外の保全活動の支援となっています。行政からの資金的バックアップは決して多くはないようです。
 そのような中で、園としての方針は、「海外での保護プロジェクトの拡大拡充」です。
実際に何をしてきたか・何をしようとしているか、その実績と今後の展望を示しながら、社会に働きかけている姿勢がすばらしいと思いました。
 また、ぜひ数年後、訪ねてみたいと思います。


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