Cental Park Wildlife Center
セントラルパーク動物園



報告者は 落合知美
訪問日は、2005年8月4日(木)です。

それぞれの写真をクリックすれば大きい写真を見ることができます。

 セントラルパークの南東の角近くに位置するこの動物園は、映画「マダガスカル」(2005年8月日本公開)の舞台にもなっています。映画に出てくる、ライオンやシマウマ、キリン、カバはいません。ホッキョクグマやアシカなど、飼育する動物種を限定して、子供動物園を合わせて6.5エーカーという狭い園内をうまく利用しています。今回、第7回国際エンリッチメント学会のパーティがここで開かれたので、8年ぶりに訪れました。

 動物園は、マンハッタンの中心、セントラルパークの南東の角近くにあります。今回、学会参加者ということで入園はフリーパスだったのですが、看板には「入園料6ドル(約650円)」と書かれてあるのを見つけ、びっくりしました。前回は、2.5ドル(約300円)だったので、すごい値上がりです。が、園内はほとんど変わらず、入ってすぐの開けた空間にあるアシカの円形水槽では、アシカがお客さんの様子を観察しながらぐるぐる泳ぎ回っていました。


熱帯雨林 Rein Forest

 本園には、室内展示が2つあります。その1つが「熱帯雨林」です

 扉をくぐるとそこは熱帯のジャングルの中。天窓から太陽光が降り注ぐ室内には、8mを越える大木がそびえたちます。天井からは定期的に霧が噴出されているので湿度は高く、緑の匂いがムッと立ちこめます。

 その建物の中では、トリやコウモリなどの動物たちが放し飼いになっています。絶滅が心配されているカンムリシロムクなどもいます。地上には、マメジカやガチョウ、カメがくつろいでいます。

 壁にも緑が施されています。ウッドデッキの通路はくねり、その先になにがあるのか進んでみないと分かりません。頭上にはツル植物が垂れています。流れる水の音と鳥たちの鳴き声が聞こえます。そんな環境は、自分が今、マンハッタンのちょっとした建物の中にいることを忘れさせます。
写真左:壁面の緑化の方法。コルクをゴムリングで縛り付けています。

 途中には階段があります。それをのぼると、また違った視点で室内の緑やその中に潜む動物たちを見ることができます。滝の近くでは、トリが水しぶきにあたって涼んでいました。

 通路を進むとビニールのカーテンがあり、それをくぐると少し暗い空間があります。そこでは、カエルやヘビ、トカゲ、マーモセットやタマリンなどが飼育されています。比較的小さなガラスの中なのですが、ツル植物を左右上下に渡すなど緑をたくさん配置し、手のこんだ雰囲気作りをしてあります。マーモセットの飼育場の少し高い位置には、芝生のシートが設置されていました。動物たちはそこから小さな穀物を、器用に拾い上げて食べています。どうやらこれは、食べ物を手に入れにくくすることで採食時間を増やす、「採食エンリッチメント」の1つのようです。

 通路のあちこちには、熱帯雨林の環境や動物の多様性について解説した看板もあり、あまり大きくない建物自体をフル活用した工夫が随所にみられました。

 


極地の展示 Polar Circle

 もう1つの室内展示が、「ペンギン&パフィン」という建物です。この建物は、ホッキョクグマやホッキョクギツネ(なぜかカリフォルニアアシカと同居)といった「極地ゾーン」にあります。

 なお、この動物園のホッキョクグマの展示は、川端裕人さんの本「動物園にできること」(文藝春秋)の「幸せなクマさんを探して」の章で、"常同行動をしないホッキョクグマ"として紹介されています。採食エンリッチメントを徹底的におこなうことで、ホッキョクグマに見られがちな行ったり来たりの常同行動が、ほとんど見られないそうです。

 実際、8年前に見たホッキョクグマは2個体とも、常同行動はしていませんでした。今回はどうだろうと楽しみに見に行くと、なんと1個体は水中を泳ぎ、1個体は来園者の様子を観察中でした(写真左)!

 来園者の観察をしているクマは、岩とガラスの間に体を挟み、足をガラスにつけて体を支えていました。見通しがきく場所なので、手前の来園者から遠くを歩く来園者まで、観察することができます。来園者も目の前の大きなホッキョクグマにびっくりし、記念撮影をしたり、足の裏に自分の手を合わせてみたりと、貴重な体験をしていました(もちろん私も♪)。

 ガラス越しにツララの風景を眺めて、「ペンギン&パフィン」と書かれた建物に入ります。クーラーの効いた暗く青白い室内は、また違った世界です。ドアを潜ると、目の前に広い水槽が広がり、ペンギンが小さな泡を出しながら水中をすごい勢いで泳いでいきます。子供たちは水槽にへばりつき、大人たちは反対側にあるベンチに腰をおろして、その風景を眺めます。

 その空間を過ぎると、パフィンが泳ぐ水槽があります。パフィンは、日本ではエトピリカとよばれ、国内稀少野生動物種に指定されているそうです。そのユーモアある格好と水の中にすいすいもぐっていく姿は、いつみてもなんだかとてもほほえましい気持ちになります。

 これらの展示は、レベルが高いといわれる日本の水族館などと比べるとやや見劣りしてしまいます。しかし、ニューヨークの真ん中の小さな空間で出会えるので、いくぶん違った感動があります。限られた敷地の建物の中に作る異次元空間として、「熱帯雨林」と「極地」を選び、そしてその雰囲気作りをする手法がみごとだなと感じました。


子供動物園 Children's Zoo

 子供動物園は、本園を出て北に進み高架道路(65th Street)をくぐった右手に位置します。正式名は、「Tisch children's Zoo」と言い、Tischとは1997年に開園した時の主な出資者の名前です。

 ここには、ブタやウシ、ヒツジ、ヤギ、ウサギといった「家畜」が飼育されていて、稀少な「野生動物」を扱う本園とは、明確に立場を異ならせています。

 園内の雰囲気も同様で、子供が安全に楽しめるような様々な工夫がされています。例えば、入口は大きなドングリが転がる木の洞になっています(写真左)。そこを入れば、天井をネットで囲まれた空間で、トリたちが放し飼いにされ、小川が流れ、噴水が橋の上を通過します。地面はすべて柔らかなクッション材で、転んでもあまり痛くありません。解説版は、子供が大人と一緒に覗き込める位置に設置してあり、絵本のような形をしていて文章もやさしいく書かれています。園内には、顔を出せるウサギの置物や、中に入れるカメの甲羅、ロープでできたクモの巣などがあり、それぞれを体験して楽しむことができます。

 もちろん、餌を購入して動物たちに与えることのできる「ふれあいコーナー」もあります。そこに置かれた動物の置物は、背中を押すとその動物の鳴き声がテープで流れる仕組みになっています。ちゃんと動物たちへの配慮もされています。各動物には、逃げたり隠れたりする場所が作られ、よりよい管理をおこなうためのターゲットトレーニングがされています。コンクリートの床に芝のシートを置くなどのエンリッチメントもおこなわれていました。

 


感想

 日本では、生息地への環境に適応してきた「野生動物」と、人間と一緒に暮らすよう改良されてきた「家畜」や「ペット」の違いについて、動物園などできちんとした教育がされていないような気がします。

 実際、"ふれあい"と称して野生動物の子供を不必要に人工保育したり、来園者に慣れさせたりなどする動物園もありますが、野生動物がかわいくて、人間のいうことをきくのはほんとうに小さな子供の頃だけで、それ以降の慣れた野生動物は人間にとって非常に危ない存在になってしまいます。それは、動物にとっても私たちにとっても不幸なことです。

 このセントラルパーク動物園のように、本園と子供動物園をわけ、位置づけを明確に変えてくれると、自然に正しい環境教育が身につくのに、と思いました。


公式ホームページはこちら http://www.wcs.org/zoos/wildlifecenters/centralpark/
基本情報は、こちらをチェック。

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