12月のセミナー
2002年12月11日(水)18:30〜20:30 @環境パートナーシップオフィスの会議室にて
 テーマ:なぜ日本にフンボルトペンギンが多いのか 
〜日本におけるペンギン飼育の現状〜
 

 話題提供者:福田 道雄 氏(東京都葛西臨海水族園) 

 白黒のすっきり模様、2本足でヨチヨチ歩く愛らしい姿・・・そんなペンギンの魅力に惹かれてか、今回のセミナー参加者は約60名と、これまでで最多となりました。話題提供者の福田さんは、長年葛西臨海水族園などでペンギンの飼育にかかわってこられた、まさにペンギンのスペシャリスト。貴重なデータを交えながら、豊富な知識と経験に基づいた内容を、楽しく親しみやすい口調で語ってくださいました。

<日本のペンギン飼育の歴史>
 ペンギンが日本に初上陸したのは1915年(大正4年)。1羽は上野動物園へ、もう1羽はなんと浅草花やしきへもらわれました。その後もペンギンは続々と来日。1923年の記録では1羽の購入価格が62円となっています。特筆すべきは阪神パークで、日本初のペンギン専用舎が設けられ、一時は最大70羽以上が飼育されていました。当時の写真をみると、温帯性のケープペンギンがコンクリートを白く塗った氷山風展示の中、長屋風の巣箱で暮らしている様子がわかります。それほど数の多かったペンギンですが、戦争などの影響を受けて1945年1月には最後の1羽が死亡し、日本でのペンギン飼育の歴史はいったん途絶えることとなりました。

 戦後まもなく、捕鯨船が南氷洋にでかけるようになると、そのお土産として生きたペンギンが日本へ持ち帰られるようになりました。これらの極地ペンギンは全国の大きな動物園に寄付され、来園者の人気を博しました。しかし捕鯨船が持ち帰るペンギンの数は限られていたため、寄付を受けることのできなかった動物園ではヨーロッパの動物商(ハーゲンベック)からペンギンを購入、この時導入されたものの多くがフンボルトペンギンでした。当時はデパートの屋上や移動動物園、サーカスなどでも飼育されていたそうです。フンボルトペンギンは、他のペンギンに比べ環境に適応しやすく、繁殖も容易でした。特に、スーパーペアとよばれる繁殖の上手いカップルから多数のヒナが生まれ、その子供らがまた繁殖してどんどん数を増やしていったのです。

<ペンギン飼育の現状>
 現在、国内でペンギンを飼育している施設は92園館(日動水加盟園館の中で)。飼育数は10種類、2,300〜2,400羽にのぼり、まさに日本はペンギン超大国といえます。フンボルトペンギンの飼育率は1980年時点では100%、つまりペンギンを飼育している園館ならどこにでもフンボルトペンギンがいたことになりますが、以後この飼育率は低下しています。

 飼育率が下がった背景には、フンボルト属の雑居の解消があります。日本ではかつて、フンボルト属(フンボルト、ケープ、マゼラン)が雑居状態で飼育されており、そこで産まれたハイブリッド(雑種)に繁殖力があったことから、雑種のペンギンがどんどん増えていました。このことが国際ペンギン会議で強く指摘されたため、日本では1993年にフンボルトペンギンを種別調整種に指定し、雑居の解消にのりだしました。この結果、フンボルトペンギンの飼育園館数は減ったのですが、飼育羽数自体は現在も増加し続けています。

<フンボルトペンギン飼育の問題点>
 現在、フンボルトペンギンを飼育している各施設での平均飼育羽数は約20羽。園館別にみると10羽前後で飼育しているところが大多数です。統計を見ると、飼育数の多いところほど死亡率が低く、育雛率が高いことがわかります。これはペンギンが「群れる」動物であることに由来します。しかしだからといって、むやみやたらと繁殖させたり、野生のペンギンを捕獲してきたりして飼育羽数を増やせばよいということではもちろんありません。

 目下の大きな課題として、近親交配の問題があります。同じ家系のペンギンを交配させていくと、繁殖力が低く病弱なヒナが生まれる傾向があります。これを防ぐためにおこなわれるのが、血液更新です。しかし、血液更新目的で移動させられたペンギンのほとんどが4年以内に死んでしまい、また移動先での繁殖も極めてむずかしいことが、統計から明らかになりました。これは環境、仲間、飼育方法の変化が大きなストレスになっているためで、ペンギンが意外とナイーブな生き物であることがわかります。

 こうした問題を解決するために考え出されたのが、受精卵の状態でペンギンを移動させる方法です。ペンギンはもともと卵を抱こうとする性質が強いことから、移動先での里親も難なく卵を抱いてくれるので、こちらは現在大変うまくいっています。

<ペンギンのエンリッチメント>
 ペンギンのエンリッチメントをおこなう上で、とにかく大切なのは「群れ飼育」です。少なくとも10羽以上、なるべく多くのペンギンを群れで飼うこと。これにより、群れ全体の平均寿命が延び、繁殖率があがるだけではなく、活発で生き生きとした、ペンギンらしい行動をひきだしてあげることができます。

 展示施設の構造やスタイルも重要です。生態展示が増えてはきたものの、依然として「氷山タイプ」や「おとぎの国タイプ」のところが多いのが現状です。これからは設計者、お金、スペース等の制約があるなかで、「いかにペンギンをペンギンらしく見せるか」が課題となってきます。

 飼育作業による活発化の方法としては、給餌方法の改善や、巣材や氷塊の供給があります。ペンギンは海で魚を獲って食べる肉食の動物であることから、葛西では魚をプールなどにばらまいておくのではなく、一度に集中して与える方法をとっています。ぼやぼやしていると食べ損ねてしまうため、一度にたくさん食べて、あとは絶食するという野生での食生活に近づけることができます。巣材や氷塊は、ペンギンが口にくわえて運べるものを与えます。また、落ち着けるよう巣穴の入り口に障害物を置いてあげるなど、野生に近い状態を飼育下でも作り出してあげることが、ペンギンのエンリッチメントにつながります。

 ところで最近、ペンギンパレードをおこなう園館が増えています。これはペンギンの運動不足解消と、来園者サービスを兼ねたイベントですが、回遊性のペンギンなどはあまり長い距離歩かせると足に趾瘤(しりゅう)ができることがあり、これが壊死を起こして最終的に死亡してしまうこともあります。どんなイベントをおこなうにせよ、ペンギンにとって負担になっていないか、よく検証することが必要です。

 以上が福田さんからのお話でした。引き続き質疑応答の時間があり、参加者からは血液更新などに関する質問のほか、「ペンギンの視力はどれくらい?」「生餌はどうしてやらないの?」「ペンギンにリーダーはいないの?」などの素朴な疑問も飛び出し、和やかなムードの中、終了時間をむかえました。人気が高い割には意外と知られていないペンギンの素顔、また飼育員の方のご苦労をうかがうことができ、たいへん中身の濃いセミナーでした。ペンギンの幸せな暮らしのために、市民ひとりひとりができることを考えていくきっかけになってくれれば、と思います。福田さん、どうもありがとうございました!

 セミナーに参加していただいたみなさまからは、「雰囲気がよく、一人では来づらいかなと思っていましたがそんな事は全然なかったです。」「実際に飼育を担当されている方の話を聞ける機会はあまりないので、いい経験になりました。」「とても勉強になりました。」などなど、たくさんのご感想をいただきました。セミナーにご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。

清水 亜紀子 [市民ZOOネットワーク スタッフ]



:このウィンドウを印刷する
:このウィンドウを閉じる