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動物たちの豊かな暮らし

エンリッチメント大賞 2007

「行動しない展示」が大賞を受賞!


 第6回目となった今年は、全国から70件の応募がありました。第一次選考を通過した16件について再調査がおこなわれた後、第二次審査(本審査)により、以下3つの施設(担当者)が「最優秀賞」「動物園人賞」「奨励賞」に選ばれました。

 今年のエンリッチメント大賞は、「エンリッチメント」本来の考え方に立ち戻った表彰になりました。本来、エンリッチメントは「動物のためのもの」です。しかし「エンリッチメント」という言葉が少しずつ社会にも浸透してくるにつれ、必ずしも動物のためでなく、観客に行動をみせる展示手法として、エンリッチメントという表現が使われるようになっています。エンリッチメントは展示手法ではありません。飼育されている動物の暮らしを少しでも自然の中での暮らしに近づけるための工夫のことです。今回受賞した3つの施設(担当者)は、「飼育されている動物のために環境を整えるとはどういうことか」というエンリッチメントの原点に立ち戻った取り組みが評価されました。こうした取り組みをおこなうためには、その動物種についての豊富で正しい知識が必要不可欠です。さらにこうした取り組みを実践できた背景には、本人の多大な努力とともに、上司や同僚など関係者の多大な協力があったことと思います。今後も、そうした関係者のサポートを期待するとともに、動物園という場を活用して“動物のためのエンリッチメントを進められることを望みます。


> 募集の詳細はこちら(募集終了) > 応募結果と審査方法 > 一次審査を通過した取り組みに対する講評


最優秀賞

クマたちの丘 [ 恩賜上野動物園 / 東京都 ]

〒110-8711  東京都台東区上野公園9-83
tel: 03-3828-5171 /fax: 03-3828-6475


【審査委員コメント】
 「クマたちの丘」では、明確な四季のある日本に暮らしているツキノワグマの本来の生活を再現するとともに、冬籠もりを成功させました。また、モニターなど を利用して、その様子をリアルタイムで来園者に見せました。この “動物本来 の(動かない)生活を再現し、その姿を見せる”展示は、「行動しない展示」として画期的なものでしょう。また、野生では同所的に暮らす複数種の動物たち が、時間差で同じ場所を使うという工夫もされています。これらは長年にわたる計画と地道な調査研究、そして動物の様子を詳細に観察したことを基本として科 学的に取り組まれたものです。新しく完成した施設に対してというより、こうした発想と実現に向けた努力に対して、審査員全員の高い評価を得ました。
 審査委員会では「単に観客動員のためにつくられた施設ではなく、動物の生態や行動を綿密に調査して設計している」「完成後も大学との共同研究で、 冬眠中の呼吸数や脈拍などの生理機能の変化を科学的手法で測定するなど、ソフト面もしっかりしている」「飼育係の時代から抱いていた考えを実現させた、小 宮輝之園長の情熱と意志に対しても評価したい」という声も聞かれました。今後の更なる工夫に期待したいと思います。

>応募者のコメント  >受賞の声


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動物園人賞

本田 直也さん [ 札幌市円山動物園 / 北海道 ]

〒064-0959 札幌市中央区宮ヶ丘3番地1
tel:011-621-1426 / fax:011-621-1428


【審査委員コメント】
 爬虫類館担当者として長年、それぞれの動物種にあった環境整備に多大な貢献をしてきたことが評価されました。生態や生理など、種の特性を調査研究し、適切 な環境づくりと体調管理に努めた結果は、ヨウスコウワニやカンボジアモエギハコガメなど飼育下繁殖が難しい希少動物の「繁殖」という形で証明されていま す。
 エンリッチメントというと足りないものを補うというイメージが大きいですが、動物種によっては必ずしもそうとは限りません。その種が本当に必要と している環境を突き詰めた結果、“引いたり”“制限したり”することがエンリッチメントになることもあります。本田さんは、気温・湿度・日照などの管理を 徹底し、特に繁殖では一時的に動物を過酷な環境に置くという環境づくりにも取り組んでいます。さらには自然環境の要素を取り入れるだけでなく、飼育下での 暮らしの中で、新しい体内リズムを作り出す方向にまで展開がみられます。
 また、2007年3月には、自ら企画した『円山スネークアート展:なぜ多くの人は爬虫類・両生類を嫌うのだろうか』を成功に導きました。鷹匠としての技術に裏打ちされたフリーフライトや、ブログによる情報発信などバランス感覚の良さも評価されました。今後もその卓越したセンスと技術を動物たちのために使っていただきたいと思います。

>応募者のコメント  >受賞の声


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奨励賞

和久井 洋平さん [ 大宮公園小動物園 / 埼玉県 ]

〒330-0803 埼玉県さいたま市大宮区高鼻町4
tel: 048-641-6391 / fax: 048-641-2656


【審査委員コメント】
 ツキノワグマやアムールヤマネコなどが、立体的に行動できる空間をつくったり、肥満に陥りがちな飼育動物の餌を改善したりと、お金をかけず、手間をかけ る取り組みを地道におこないました。その結果、動物の健康状態が改善され、ブチハイエナやアムールヤマネコの繁殖にも成功したという点は評価に値します。 エンリッチメントの一部を来園者参加型イベントとして実践し、来園者に動物の生態・形態を伝えているという教育活動も評価されました。
 大宮公園小動物園の施設は、必ずしも近代化が進んでいるとは言えません。今回の取り組みは、他の動物園が長年続けているエンリッチメントの実践と 比較すれば小さなものに過ぎないかもしれません。奨励賞は、その努力の過程を評価したものであり、今後に繋げていって欲しいとの願いを込めたものです。今 後、実施したエンリッチメントについての効果判定をおこなう必要があるでしょう。また、より多くの関係者がこうした取り組みに目を向け、動物園の環境と動 物たちの暮らしについて再考することを期待します。

>応募者のコメント  >受賞の声

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 惜しくも受賞にはいたらなかった取り組みについても、それぞれが動物たちの幸せのために工夫を凝らしたものでした。これらついてもエンリッチメント図鑑でご紹介しますので、合わせてご覧ください。


 市民ZOOネットワークでは、環境エンリッチメントの試みを、市民が理解し、評価し、応援する社会づくりを目指し、今後もエンリッチメント大賞を継続していきたいと思っています。

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