HOME > 動物たちの豊かな暮らし > エンリッチメント大賞 > 2011年度
メールニュース
市民ZOOネットワークのイベント情報や動物関連情報をお知らせ!
詳しくはこちら
name
mail
サポーター募集

動物たちの豊かな暮らし

エンリッチメント大賞 2011

「エンリッチメント大賞2011」大賞発表!


 エンリッチメント大賞も今年で10回目を迎えました。今年は全国から54件の取り組みに対して57件の応募(いくつかの取り組みに複数の応募がありました)があり、そのうち9件が一次審査を通過しました。
 一次審査を通過した取り組みについては、スタッフが現地を訪問し、関係者にインタビューをするなどして、追加調査を実施しました。追加調査の結果をもとに、9月24日に二次審査の場となる審査委員会が開催され、今年は以下の3件が大賞に選ばれました。
 選ばれた3件の取り組みは、どれもその園館ならではの取り組みであり、10年目を迎えるエンリッチメント大賞に相応しいものとなりました。

 

> エンリッチメント大賞2011 表彰式&講演会


> 募集の詳細はこちら(募集終了)
> 応募総数と審査方法
> 一次審査を通過した取り組みについて


動物園人賞

椎名修さん(愛媛県立とべ動物園)


【審査委員コメント】
 ゾウは本来母系の群れで暮らし、出産・育児は、群れのメンバーのサポートを得ておこなわれます。しかし、日本の動物園では1〜3頭で飼育するところが多く、出産・育児もうまく進む例が少ないのが現状です。
 椎名さんは直接飼育によって、ゾウとの密接な個体関係作りを進めてきました。そして出産にあたり、自分が仲間のゾウの代わりとなってサポートをしてきました。第一子は母親が育てなかったためやむなく人工保育に切り替える結果となりましたが、その時の経験を糧に、第二子は母親が育てるように誘導しました。さらには、第一子も、母親と一緒に暮らせるように誘導することに成功しました。現在は子ゾウが2頭、母親のもとで安心して遊ぶ様子が見られます。時折、父親と母子を同じ放飼場に出して、生活に変化を与えています。
 椎名さんの手法がすべての施設、飼育個体、飼育担当者に普遍性をもって応用できるかどうかは議論の余地がありますが、「普通の暮らしができるようにする」、そのために「足りないものを補う」という椎名さんの考え方は、確かに飼育個体の福祉への配慮に基づいたものです。個体への福祉=エンリッチメントではありませんが、本来、出産、育児が困難な環境にありながら、それを実現させるための日々の行動と努力が、現在の小さな“群れ”の構築という形で実を結んだ事実が評価されました。
 今後、やっと形成された母親と子ども2頭の小さな”群れ”を継承・発展させるために、より豊かな環境の創出と後進の指導に期待します。

愛媛県立とべ動物園
(えひめけんりつ とべ どうぶつえん)
http://www.tobezoo.com/
〒791-2191 愛媛県伊予郡砥部町上原町240
tel:089-962-6000 / fax:089-962-6194

>応募者のコメント >受賞の声

ページトップへ

施設賞

ペンギンヒルズ(埼玉県こども動物自然公園)


【審査委員コメント】
 ペンギンの施設というと、以前は南極や氷の上をイメージさせるような白っぽいコンクリートで囲まれた施設ばかりでしたが、近年、温帯に暮らすペンギンの施設については、その生息地の環境要素に配慮したグアノ(糞化石)層を模した岩場などを表現したものが次々とオープンしています。そんな中、2011年4月にオープンしたペンギンヒルズは、南米に住むフンボルトペンギンの飼育施設であり、モデルとなった生息地は、フンボルトペンギンの南限の生息域である「緑豊か」な南米チリのチロエ島です。
 ペンギンたちが遊泳することのできる大きさと深さ、造波装置のあるプールはもちろん、地形を利用した高さ4m以上の緑の丘があり、ペンギンは自由にプールとこの丘の斜面を行き来し、穴を掘り、営巣することができます。敷地の一部に来園者が入れるようにしたことで、広い飼育スペースを確保しました。ペンギン自身が人との距離を自由に取ることができるような工夫がされています。
 しかし、これまで別の施設の比較的狭いスペースで暮らしていたペンギンたちは、まだ広い土の陸地に慣れておらず、現在のところ、これらの工夫を利用していません。今後、ペンギンが施設に慣れ、事故や怪我、大きなストレスを受けることなく、生息地で見られるような陸上での行動が発現し、繁殖に結び付くことを期待します。

埼玉県こども動物自然公園
(さいたまけん こども どうぶつ しぜんこうえん)
http://www.parks.or.jp/sczoo/
〒355-0065 埼玉県東松山市岩殿554
tel: 0493-35-1234 / fax:0493-35-0248

>応募者のコメント >受賞の声

ページトップへ

特別賞

水流への取り組み(東京都葛西臨海水族園)


【審査委員コメント】
 プランクトンを水槽内に拡散させる「間歇的給餌器」として、水流にランダムな変化を与える装置として、「ししおどし」という日本古来の技法を利用したことがユニークでした。この工夫により、ヤギやトサカなどのサンゴ類に程良い水流で満遍なく餌が行きわたるだけでなく、同居する魚などにも野生と同様の複雑に水が動く環境を提供できていると推測されます。この他にも、シュモクザメの水槽では、押し流されてケガをするのを防ぐために水流を少なくするなど、水流に対する配慮は各水槽、各動植物になされています。管理が困難であるために、国内の多くの施設ではイミテーションが用いられているようなジャイアントケルプやアマモなどの植物の発色が良く、再生産されていること、サンゴも健康に成長していることからも、こうした水流への配慮が良い影響を与えているようです。
 動物園の水槽内の動植物の多くは、長期間にわたって維持管理することが難しいため、次々に野生から採取してきているのが現状ですが、葛西臨海水族園での水流への取り組みは結果として、野生からの搾取を減少させていることとなり、この点でもこうした取り組みは重要です。
 今回の受賞は、葛西臨海水族園での「ししおどし」に代表される各動植物のための「水流への取り組み」を評価したものです。魚や無脊椎動物などに対しての環境エンリッチメントは、まだ模索の段階ですが、「水流への取り組み」は、これからのこの分野のエンリッチメントのひとつの方向を示唆しているのではないでしょうか。今後も研究を重ねていかれることを期待します。

東京都葛西臨海水族園
(とうきょうと かさい りんかい すいぞくえん)
http://www.tokyo-zoo.net/zoo/kasai/
〒134-8587 東京都江戸川区臨海町6-2-3
tel: 03-3869-5152(代)

>応募者のコメント >受賞の声

ページトップへ

 惜しくも受賞にはいたらなかった取り組みについても、それぞれが動物たちの幸せのために工夫を凝らしたものでした。これらについても適宜エンリッチメント図鑑でご紹介していきますので、あわせてご覧ください。


 市民ZOOネットワークでは、環境エンリッチメントの試みを、市民が理解し、評価し、応援する社会づくりを目指し、今後もエンリッチメント大賞を継続していきたいと思っています。

ページトップへ