動物たちの豊かな暮らし
エンリッチメント大賞 2014
「エンリッチメント大賞2014」大賞発表!
―「ザ・エンリッチメント 」といえる取り組みが受賞―
皆さまからのご支援を受け、今年もエンリッチメント大賞が決定しました。全国から41件の取り組みに対して49通の応募があり、そのうち10件が一次審査(書類審査)を通過しました。一次審査を通過した取り組みについては、スタッフによる追加調査をおこない、審査委員らによる二次審査を9月27日に開催しました。その結果、大賞1件、奨励賞1件がエンリッチメント大賞に選ばれました。
今年選ばれた2件はどちらも、飼育動物に向き合って試行錯誤する「エンリッチメントそのもの」でした。動物が健康に暮らせる環境を整えるため、地道に動物と向き合い、その動物種や個体を理解し、作業を継続し、できる範囲での多くの工夫がおこなわれたものです。大賞に選ばれた安佐動物公園の取り組みは、1971年の動物園開園以降続けてきた長い歴史があり、海外からも高い評価を受けています。奨励賞に選ばれた宮崎市フェニックス自然動物園の取り組みは、お金をかけずにあの手この手で取り組んだ熱意を感じさせるもので、積極的にウェブサイトで公開し、他の動物園での活用に至っています。
実は、審査委員会で長時間にわたり議論されたのは、「ゴリラ」と「ホッキョクグマ」における取り組みでした。「環境エンリッチメント」の歴史において、大型類人猿やクマは、大きな“山”ともいえる動物種です。そのため、環境エンリッチメントの“先進国”では、情報やノウハウがすでに蓄積され、実行されています。そういった国際基準との比較の中で、日本での成熟度と授賞のタイミングが議論となりました。今回は、今後への期待を込め、授賞を見送ることになりましたが、注目していきたい動物種です。
今回授賞の2件は、環境エンリッチメントの実行はもちろん、全国的な飼育園館のネットワークや、国際的なコミュニティ形成という部分までおこなっていることが特徴です。動物を飼育することの意義や持続可能性まで見いだせる貴重な取り組みであることが、より高く評価されました。
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> 応募総数と審査方法
> 一次審査を通過した取り組みについて
大賞
オオサンショウウオの継続した飼育下繁殖と域内保全への適用
(広島市安佐動物公園)
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写真提供:広島市安佐動物公園
【審査委員コメント】
広島市安佐動物公園は開園(1971年)以来、オオサンショウウオについて“野生に学び”、そこで得た知識や経験を研究や飼育にいかしてきました。飼育下において、オオサンショウウオの豊かな環境を整えることに成功し、繁殖や継代飼育という形でその成果は表れています。今年は20年ぶりの野生個体数調査をおこない、20年間の野生個体数の推移についての比較研究が予定されています。そこで、これまでの取り組みに敬意を表し、この機の授賞となりました。
エンリッチメントとしての一番の素晴らしさは、園内に設置した「人工巣穴」でしょう。オオサンショウウオの“ヌシ”が安心して卵を守るための環境を、水流や人工物などの絶妙な配置で再現しています。一見、水がたまるマンホールの数々のようですが、ヌシが他の雄や外敵から巣穴を守り、卵や子どもたちを守ることのできる良好な環境を整えています。そこはオオサンショウウオにとって、必要な機能や要素が満たされた、安心できる環境なのです。オオサンショウウオは、日本各地の動物園や水族館で飼育されていますが、長期間にわたり継続して繁殖しているのは、この安佐動物公園だけです。それが、オオサンショウウオの飼育の難しさと、安佐動物公園の飼育技術の高さを物語っています。
飼育技術やデータは公開され、国内外の様々な機関との連携・協力も積極的におこなわれています。野生のオオサンショウウオの生活空間のモデルとして、河川の改修工事にも活かされています。地域住民と協働した保護活動にも取り組んでいます。海外からの評価も高く、海外の動物園関係者がオオサンショウウオ類の飼育研修のために訪れています。こうした学術研究や保全活動、教育、海外との連携などは、飼育の技術の高さを裏付けるものであり、飼育での環境エンリッチメントが、そうした技術や普及により支えられていることも評価されました。
飼育下に、野生環境の縮図ともいえる生活空間を再現することに成功した、「環境エンリッチメント」そのものであり、長年の様々な活動に敬意を表しての授賞となりました。
広島市安佐動物公園
(ひろしまし あさ どうぶつこうえん)
http://www.asazoo.jp/
〒731-3355 広島市安佐北区安佐町大字動物園
tel:082-838-1111
>応募者のコメント >受賞の声
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奨励賞
類人猿に対する環境エンリッチメントの取り組みと情報発信
(宮崎市フェニックス自然動物園)
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写真提供:宮崎市フェニックス自然動物園
【審査委員コメント】
チンパンジーやオランウータンを対象とした、担当者のあの手この手の地道な努力が評価されました。現場で取り組む職員や支援者への応援と、今後の発展への期待も込め、奨励賞の授賞となりました。
取り組み自体は、採食エンリッチメントを中心とした基本的なものです。しかし、多様なフィーダー(給餌装置)を開発し、個体が飽きることのないよう、継続して環境エンリッチメントを実施しています。高度な知能を持ち、野生では採食に長い時間をかける類人猿にとって、手先や頭を使った装置での採食時間の延長はとても重要な環境エンリッチメントです。継続しておこなうには、その効果とかかる手間のバランス、そして費用を考慮することも重要です。宮崎市フェニックス自然動物園の取り組みでは、できるだけ安価に、身近なもので工夫できる方法を日々開発しています。また、インターネットを通じて、フィーダーの作成法や費用についての情報を発信しています。実際に他の動物園にもここでの方法が波及し、同じものを取り入れ、あるいは応用して、エンリッチメントに活用されています。実施したエンリッチメントの客観的な評価として、大学など外部機関との連携により、エンリッチメントの研究にも着手しています。
時代とともに動物の飼育環境は大きくかわってきましたが、いまだコンクリートと鉄格子に囲まれた“檻”の中で動物を飼育しなければならないところもたくさん残っています。そうした中で、職員が熱意を持ってできることをおこなうことは、環境エンリッチメントの基本です。この奨励賞は、そうした職員たちに光を当て、応援する授賞となりました。
宮崎市フェニックス自然動物園
(みやざきし ふぇにっくす しぜんどうぶつえん)
http://www.miyazaki-city-zoo.jp/
〒880-0122 宮崎県宮崎市塩路浜山3083-42
tel:0985-39-1306
>応募者のコメント >受賞の声
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惜しくも受賞にはいたらなかった取り組みについても、それぞれが動物たちの幸せのために工夫を凝らしたものでした。これらについても適宜エンリッチメント図鑑でご紹介していきますので、あわせてご覧ください。
市民ZOOネットワークでは、環境エンリッチメントの試みを、市民が理解し、評価し、応援する社会づくりを目指し、今後もエンリッチメント大賞を継続していきたいと思っています。