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動物たちの豊かな暮らし

エンリッチメント大賞 2020

「エンリッチメント大賞2020」
―動物飼育の将来の方向性を社会として考え直す―


 エンリッチメント大賞2020には、21件の取り組みに対して全国から28通の応募がありました。そのうち11件が一次審査(書類選考)を通過し、スタッフによる現地調査やリモートヒアリングを経て、9月22日に二次審査(審査委員会)がおこなわれました。その結果、大賞1件、その他各賞4件が選ばれました!
 19回目の開催となった今年は、特殊な状況であったことは間違いありません。いわゆるコロナ禍のなか、春季にはほとんどの動物園・水族館が閉鎖され、募集期間を2週間延長したものの、応募件数は例年より少なめでした。今年の大賞の開催について心配する声もありましたが、閉鎖中であっても、動物園・水族館には動物たちが暮らし、制約のある中でもエンリッチメントに励んでいる飼育担当者がいて、その様子がSNSなどで発信されていたことが、開催を決断する後押しとなりました。
 集まった応募内容は、何年にも渡って計画された大規模なものから、行動評価さえ難しい小さな努力の積み重ねまでさまざまでした。対象動物種も、大型哺乳類から両生類・魚類にいたるまでの幅広い分類群から寄せられました。そして、興味深いことに一次審査を通過したすべての応募内容が、動物の飼育に関して「将来の方向性を社会として考え直す」きっかけをあたえるようなものでした。従来の飼育方法の変革、保全や野生復帰への貢献、高齢動物への配慮、さまざまな分野とのコラボレーションなどです。教育現場における動物飼育の課題解決の試みや、クマ牧場といった特殊な形態の施設での挑戦など、これまであまり見られなかったような分野の取り組みも印象的でした。
 そんな中から、「優れた取り組みについては、件数を絞ることなく選出しよう」という意見により、5件の取り組みが受賞となりました。いずれも、すばらしいエンリッチメントであり、日本の動物飼育における将来の方向性を提示するような取り組みだと考えます。

> 募集の詳細はこちら(募集終了)
> 応募総数と審査方法
> 全応募はこちら[.pdf 183KB]
> 一次審査を通過した取り組みについて


大賞

札幌市円山動物園
「21世紀のゾウ飼育の最低条件を寒冷地で実現させる試み」

 アジアゾウの飼育施設・飼育体制として、日本国内ではこれまでになかったスケールのものが実現しました。
 施設は、ゾウ飼育の国際的な基準を満たすことが目標とされました。寒冷地である札幌でも冬季に適正な飼育ができるよう、充実した屋内施設を設けました。ゾウにも飼育担当者にも安全な準間接飼育を前提とし、屋内外に砂を厚く敷き詰め、さまざまなエンリッチメントを実施できるような配慮もなされています。そういった作業が十分に実施できるように担当職員を増員するなど、体制づくりに取り組んだ動物園や札幌市の組織としての姿勢も評価できます。
 円山動物園では、旧来の施設で単独飼育していたゾウが死亡したあと、再開について議論を進めてきました。過去の反省を踏まえたうえでゾウ飼育の是非を市民に問い、合意形成し、各種調査や検討を経てさまざまな課題をクリアし、飼育再開に至りました。
 このように、ゾウの来園から2年が過ぎ、これまでの日本でのゾウ飼育の問題点を把握しながら飼育技術の習得と向上を目指している点が高く評価されました。しかし、これが終着点ではありません。ここでのこれからの実績が、他の動物園が後に続くかどうかの試金石となるでしょう。ゾウの飼育や展示を続けるには、このような施設と体制を築き、飼育担当者の安全のもと、ゾウの健康や繁殖が保障されることが必要となってきています。これからの日本の動物飼育においてリーダーシップを発揮されることを、今後の円山動物園に期待します。

札幌市円山動物園
http://www.city.sapporo.jp/zoo/
〒064-0959 札幌市中央区宮ヶ丘3番地1
TEL:011-621-1426

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敢闘賞

横浜市立金沢動物園
「インドゾウに対するQOL向上の取り組み」

 旧来型の飼育施設でも、担当者のチームワークとアイディアにより、問題行動を減少させインドゾウ本来の自然な行動を引き出したことと、それらの結果を大学との共同研究によって科学的に検証していることが高く評価されました。
 金沢動物園のゾウ舎は、コンクリートでできた広大とはいえない放飼場と寝室から構成されています。このため、常同行動や足の疾患、さらに肥満などの問題が発生していました。それらを解決すべく、放飼場に砂を、寝室にはオガ粉を敷き詰め、自動給餌機の設置や枝葉の給餌、さらに夜間放飼など、大規模な施設改修によらずとも実施可能な工夫を数多く考案し、取り入れています。
 特に評価されたのが、それらを「やって満足」したのではなく、連携大学との共同研究により結果検証している点です。ビデオカメラでゾウの行動を24時間記録し、常同行動の発生状況や行動レパートリーなどについて分析しています。その結果を活かして、より高い効果が得られるよう改善するなど、試行錯誤を重ねていることが伝わってきました。
 近年、狭いスペースでのゾウ飼育に対しては厳しい視線が向けられています。しかし、現状でできることを考えながら実行し検証していく姿勢は他園の模範となるものであり、まさに「敢闘賞」にふさわしいと判断しました。同時に、飼育スペースの問題やこれからのゾウ飼育の方針など、本質的な解決をいかに図るかが今後の課題だといえるでしょう。

横浜市立金沢動物園
http://www.hama-midorinokyokai.or.jp/zoo/kanazawa/
〒236-0042 神奈川県横浜市金沢区釜利谷東5丁目15-1
TEL:045-783-9100

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グッドアイディア賞

相模川ふれあい科学館 アクアリウムさがみはら
「ミヤコタナゴの人工産卵床の開発および展示水槽への設置」

 ミヤコタナゴはかつて関東地方に広く分布していた淡水魚ですが、現在ではほとんどの地域で絶滅し、水族館等での生息域外保全により維持されています。継続的に繁殖させる技術は確立されてはいるものの、自然産卵のためには産卵床となる野生の淡水性二枚貝を採取し続けるが必要があることや、人工授精では個体に負担がかかるという問題がありました。そこで、これらの問題を解決すべく、安価な用具で制作・設置した人工産卵床を用い、自然な繁殖行動を引き出し、実際に繁殖にも成功しました。これは福祉状態の良好さを実証する一つの指標になると考えます。
 この人工産卵床は、二枚貝の入水管や出水管(ミヤコタナゴが貝の中に産卵・放精する部分)の構造・機能をプラスチック容器とシリコンチューブで再現して、容器内に受精卵を得るというものです。ユニークなのは、容器に小さな貝を入れたところです。出水チューブから貝の匂いが出ることで、ミヤコタナゴの縄張り行動や産卵・放精などを誘発できたと考えられます。貝を消耗させることなく、繁殖のための環境要素をエンリッチメントによって補ったすばらしいアイディアです。また、この装置を展示用水槽に使うことで、展示個体も繁殖に参加できるようになりました。個体の福祉や保全と展示が両立できるようになり、来園者への教育効果も期待できます。さらに、繁殖行動を誘発する“刺激”の解明など、今後の研究によりさまざまな知見が蓄積されることでしょう。

相模川ふれあい科学館 アクアリウムさがみはら
https://sagamigawa-fureai.com/
〒252-0246 神奈川県相模原市中央区水郷田名1丁目5-1
TEL:042-762-2110

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技術賞

世界淡水魚園水族館 アクア・トトぎふ
「地下伏流水を再現した飼育設備によるマホロバサンショウウオの繁殖」

 流水産卵性の小型サンショウウオの飼育環境整備に挑戦し、その結果として繁殖に成功した点が評価されました。
 これらの種は、野生での知見も乏しく、飼育下での繁殖がきわめて困難だとされてきました。そこで、野外での産卵環境を参考に、日長や水温のコントロールのもと、地下伏流水を再現し、暗幕で遮光した繁殖場所を用意するなどのエンリッチメントをおこないました。2009年に取り組みを始め、2011年に初繁殖し、以後、毎年継続して繁殖できています。繁殖に適した水温や特徴的な繁殖行動、産卵数、幼生の成長過程といった学術的に貴重なデータも得られており、論文などの成果が上げられている点も評価されました。展示のための個体を飼育下繁殖により維持することができ、野外から採取し続ける必要がなくなったという意義もあります。
 両生類のエンリッチメントは、行動の変化を定量化しにくいため評価が難しいとされています。この取り組みでは、飼育担当者が日常的に野外環境でのフィールドワークにも取り組んでおり、その知見を活かしつつ、個体に環境の選択肢を与えるさまざまな試行錯誤を重ねてきました。その結果、繁殖を引き出す環境の再現という成果に至りました。高い飼育技術が両生類の福祉に貢献したといえるでしょう。

世界淡水魚園水族館 アクア・トト ぎふ
https://aquatotto.com/
〒501-6021 岐阜県各務原市川島笠田町1453 河川環境楽園内
TEL:0586-89-8200

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奨励賞

大阪市天王寺動物園
「高齢ラクダへの取組み」

 高齢個体が生活の質(QOL)を保ちながら長生きできることを目指したエンリッチメントの取り組みです。目標設定や記録・客観的評価、改善といったエンリッチメントの基本にしたがい継続しているところが評価されました。
 一般に、飼育下の高齢ラクダは、年をとるにつれて座る時間が長くなり、それによりさらに体が弱るという悪循環の傾向がみられます。天王寺動物園で飼育されるオスのフタコブラクダも28歳という高齢の域に達したため、エンリッチメントにより自発的な運動をうながす工夫が考えられました。給餌方法の変更、ハズバンダリートレーニング、歩きやすい土壌への改良など、個体に合ったさまざまなエンリッチメントを実施しています。また、大学や専門学校と連携し、データロガーなどを使った詳細な行動分析で定量的な効果測定もおこなっています。健康管理ための体重測定や採血、検温も実施されており、今後の高齢ラクダ飼育に役立つ貴重なデータになると期待できます。「高齢ラクダに生じがちな問題を未然に防ぐ」という目標設定が明確で、そのためにエンリッチメントを実施・観察し、記録した内容を分析して改善につなげるというプロセスがしっかり押さえられています。
 今後、動物園ではあらゆる動物種で高齢化が進むことが予測されています。ただ長生きさせるだけではなく、「健康寿命」を伸ばすためエンリッチメントを実施するという考え方が広く普及することを期待します。

大阪市天王寺動物園
https://www.city.osaka.lg.jp/contents/wdu170/tennojizoo/
〒543-0063 大阪市天王寺区茶臼山町1-108
TEL:06-6771-8401

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 市民ZOOネットワークでは、環境エンリッチメントの試みを、市民が理解し、評価し、応援する社会づくりを目指し、今後もエンリッチメント大賞を継続していきたいと思っています。

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