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動物たちの豊かな暮らし

エンリッチメント大賞 2021

「エンリッチメント大賞2021」
―動物福祉を組織として保証する時代に―


 エンリッチメント大賞2021には、29件の取り組みに対して全国から35通の応募がありました。そのうち8件が一次審査(書類選考)を通過し、スタッフによる現地調査やリモートヒアリングを経て、9月18日に二次審査(審査委員会)がおこなわれました。その結果、大賞1件、奨励賞1件が選ばれました!
 今年のエンリッチメント大賞は20回目という節目の年でした。昨年同様いわゆるコロナ禍のなかでの開催となりましたが、こんな状況下でも動物園・水族館での動物たちの暮らしは毎日続いており、そこでの動物福祉向上に取り組む担当者を応援したいという思いは変わりません。応募期間中に閉鎖している動物園・水族館もあり、派手にはできませんでしたが、粛々と20回目を実施するに至りました。
 これまで、エンリッチメント大賞は、環境エンリッチメントに奮闘する現場の飼育担当者やそれをサポートする組織を応援することで、動物園・水族館におけるエンリッチメントの普及や動物福祉の向上を目指してきました。そのため、これまでの審査対象は飼育動物に対する個別具体の取り組みであり、基本的には「動物の心身の健康がエンリッチメントにより向上したか」や「それが客観的に評価され確認できたか」といったことを審査の基準としてきました。今回の大賞は、現場でのそういったプロセスを組織として保証する「体制」構築がなされ、さらにその明らかな成果としての福祉向上が確認された取り組みとなりました。これまでにも「チーム」や「園全体」での動物福祉向上の取り組み(例えば2016年度の大牟田市動物園や日立市かみね動物園など)はありましたが、今回は、国内の他の施設にも大きな影響を与えうる「指針」を園独自で整備した点や、大学などとの連携も含めエンリッチメントの結果を研究報告するといった点で、過去の受賞をさらに上回るものとなったと考えます。いっぽうで、現場の個々の取り組みやエンリッチメントの工夫が重要なことには変わりありません。応募された取り組みの中から、エンリッチメントの基本がしっかり押さえられ、客観的評価により改善のプロセスが明確に示された取り組みを奨励賞に選出しました。
 エンリッチメント大賞の審査は、年を重ねるごとに難化しています。特に一次審査を通過するような取り組みはいずれも優れており、すこし前ならば受賞してもおかしくないようなものばかりです。それだけ、日本国内の動物園・水族館における環境エンリッチメントの水準が高まっているのだと考えられます。動物福祉という点で世界に後れを取らないよう、このエンリッチメント大賞の存在意義を改めて認識しています。

> 募集の詳細はこちら(募集終了)
> 応募総数と審査方法
> 全応募はこちら[.pdf 141KB]
> 一次審査を通過した取り組みについて


大賞

京都市動物園
「動物園全体の動物福祉向上のための体制整備」

 飼育現場におけるエンリッチメントの取り組みを促進する指針を作成し、動物福祉の水準を園全体で保証するための体制を整備しました。おそらく、日本の動物園・水族館としてはもっとも先駆的な事例の一つだといえるでしょう。
 京都市動物園では2020年に園独自の「動物福祉に関する指針」を作成しました。それに基づき、2020年度はゾウ・キリン・ふれあい動物を、2021年度はサル島・フラミンゴ・ナマケモノを対象に、チーム単位での動物福祉向上に重点的に取り組んでいます。また、動物福祉のリスク評価をするチェックシートを作成し、対象種以外の動物でも飼育担当者レベルで問題認識や試行・評価ができるような工夫もしています。これにより、飼育現場の日常の自然な業務としてエンリッチメントを組み込み、自律的かつ継続的に取り組んでいけるような体制を構築しています。さらに園内各課の代表者からなる「動物福祉委員会」を組織し、園全体の方針のうち動物福祉がかかわる事柄についての議論や全体の総括などの役割を担っています。動物福祉改善の取り組みのいくつかは査読付きの研究論文となっており、自己評価にとどまっていないということも重要です。大学や他の動物園等との連携もうまく機能し、そこでの成果が京都市動物園という枠を超えて動物福祉向上に貢献していることも評価されました。こういった体制づくりの成果として、実際に、特に重点的に取り組んだ対象種(ゾウなど)において科学的・客観的な評価による環境改善のプロセスが実施されていることが確認されました。
 まとめると、組織全体としての動物福祉に対するイニシアティブが明確であり、それに実効性があること、さらに個々の動物福祉の向上がデータとして得られ、そのデータを発表する仕組みも整っていることが授賞に至った理由です。組織として動物福祉を評価する仕組みの確立は世界的な流れであり、こういった事例が今後の日本の動物園・水族館の規範となっていくでしょう。「動物福祉に関する指針」や研究業績、各種資料はすでに公開されており、市民への情報提供とともに、国内の他の動物園・水族館に対する効果・影響の普遍性も期待されます。

京都市動物園
https://www5.city.kyoto.jp/zoo/
〒606-8333 京都府京都市左京区岡崎法勝寺町
TEL:075-771-0210

>応募内容 >受賞の声

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奨励賞

横浜市立金沢動物園
「オオツノヒツジの生態展示とその検証」

 昨今、あらゆる動物種でさまざまなエンリッチメントの取り組みがなされるようになりましたが、それが「本当に動物にとってプラスになっているかどうか」、すなわち客観的評価により効果が検証されている事例はまだそれほど多くありません。金沢動物園のオオツノヒツジの取り組みでは、効果的にエンリッチメントを進める「SPIDERモデル」(エンリッチメントを実行する際の手順である、目標設定・計画・実行・記録・評価・見直しのそれぞれの英語の頭文字を取ったもの)にのっとり、動物の生活の質が明らかに向上していることが確認されました。
 もともと岩山を模した展示場1か所にて雌雄混群で飼育していましたが、強いオスのみが繁殖するという血統管理上の問題や、採食時間が少なく、メスがオスに追いかけ回されるといった福祉上の問題が生じていました。そこで、2018年より、空いていた別の草地の放飼場にメス群を移動させました。自由採食できる草地のメス群では、行動観察の結果、採食時間の割合が野生のものに匹敵することが確認されました。草地では、自由採食のためだけでなく夏の暑さの軽減も目的として植物を維持するよう努めています。画像解析ソフトを用いた緑の被覆度の調査や、大学と連携した植生調査を実施し、草地の維持のためにあえて嗜好性の低い植物の種子を蒔くといった工夫も興味深い試みです。岩山での飼育が続いているオス群れでは採食時間が短いことが依然課題となっていますが、自動給餌機を試作するなどさらなる改善に取り組む姿勢も高く評価されました。
 シンプルな取り組みながら、既存の施設・条件の中でさまざまな工夫がなされ、他の施設・動物種でも大いに参考にできるものと考えます。草食動物の飼育においては難しい、生きた植物の利用と管理をエンリッチメントに組み込んだ工夫も評価されました。今後の課題を挙げると、草地の荒廃が進まないように、面積と飼育頭数との関係、すなわち牧養力に見合った放牧圧になるような精密管理が求められます。大学などの外部機関との継続的な連携もあり、奨励賞にふさわしい取り組みといえるでしょう。

横浜市立金沢動物園
http://www.hama-midorinokyokai.or.jp/zoo/kanazawa/
〒236-0042 神奈川県横浜市金沢区釜利谷東5丁目15-1
TEL:045-783-9100

>応募内容 >受賞の声


 市民ZOOネットワークでは、環境エンリッチメントの試みを、市民が理解し、評価し、応援する社会づくりを目指し、今後もエンリッチメント大賞を継続していきたいと思っています。

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