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動物たちの豊かな暮らし

エンリッチメント大賞 2023

「エンリッチメント大賞2023」
―“常識”を打破して、未来につなげる―


 エンリッチメント大賞2023には、23件の取り組みに対して全国から25通の応募がありました。そのうち8件が一次審査(書類選考)を通過し、スタッフによる現地調査やリモートヒアリングを経て、10月1日に二次審査(審査委員会)がおこなわれました。その結果、環境再現賞1件、インパクト賞1件、奨励賞1件、正田賞1件が選ばれました!
 今回、大賞は「該当なし」となりました。エンリッチメント大賞22年の歴史のなかで、初めてのことです。しかしこれは動物飼育のレベルが下がっているということではなく、エンリッチメントの実施が当然となっていることの表れであると考えます。それゆえに、「他の模範となりうるもの」や「付加価値が伴うもの」といった「これぞ大賞!」という取り組みが見つけづらくなっているのかもしれません。その証拠に、今回各賞を受賞した取り組み(ひいては、応募されたもののほとんど)は、10年前、15年前であれば大賞に選ばれていてもおかしくないものばかりです。
 今回受賞した4件の取り組みは、近年大賞を受賞したものと比べると、科学的評価などの点で心許なさを感じるかもしれません。しかし、動物の住環境を徹底してつくり込むといった動物飼育の“王道”の取り組みから、飼育空間の枠を超えたアイディアに果敢に挑戦するような取り組みまで、動物園・水族館という業界の常識から一歩進んだ試みが受賞に至りました。これらの取り組みからは、夢がふくらみ、動物園・水族館の新しい未来が拓かれていくようにも思われます。今回の受賞で完成するのではなく、取り組みが今後さらに発展していくことを期待します。

> 募集の詳細はこちら(募集終了)
> 応募総数と審査方法
> 全応募はこちら[.pdf 117KB]
> 一次審査を通過した取り組みについて


環境再現賞

神戸どうぶつ王国
「オッターサンクチュアリ コツメカワウソ生態園」

 「カワウソのいる東南アジアの環境を神戸で再現する」をコンセプトとし、2022年にオープンした展示です。
 神戸どうぶつ王国には植栽専門のスタッフ(植物管理部)が常駐しており、コツメカワウソの生息環境が高いクオリティーで再現されています。広い池でのイルカ泳ぎ(水面を飛び跳ねながら高速で泳ぐこと)、豊富な植栽で遊ぶ行動や食べる行動、木登り、群れで遊ぶ行動など、野生と同様の行動が多く観察できます。こうした行動から、サンクチュアリ内の環境や景観を野生そっくりに再現することが、エンリッチメントの実践につながっているということの好例だと感じられます。2022年には繁殖・子育てに成功しており、群れで子育てをするというコツメカワウソ特有の行動を引き出すことも確認されました。「動物の生活環境に工夫を施し、間接的に動物の行動や状態を向上させる」というのは、「環境エンリッチメント」の定義そのものです。
 近年、国内でペット飼育されているカワウソが問題になっていますが、カワウソ本来の生息環境や生態を誤解のないよう来園者に伝えることは、カワウソを飼育する動物園・水族館に課された責任だといえるかもしれません。しかし、国内のカワウソの飼育展示場で、行動の多様化を引き出したり社会性を発現させたりするのに十分な複雑さや広さをもつ施設の例は、あまり見られないのが現状です。こういった展示の好例が他園館にとっての良い模範となっていくことを願います。

神戸どうぶつ王国
https://www.kobe-oukoku.com/
〒650-0047 兵庫県神戸市中央区港島南町7丁目1ー9
TEL:078-302-8899

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インパクト賞

長崎バイオパーク
「アメリカビーバーに野生本来の行動の機会を与える取り組み」

 「ビーバーは森で木をかじり、水辺に運んで、すみかやダムをつくる」というのは絵本や教科書にも書かれているような知識です。日本でも多くの動物園でアメリカビーバーが飼育されていますが、そのような行動を引き出した例はありませんでした。その難しい行動の再現を、展示場に橋を架けて園路や周辺の林に移動できるようにし、付近を自由に歩き回らせることで実現しました。誰もできるなんて思っていなかったし、やろうとも考えなかったことを実践されていて、審査委員会は大きな衝撃を受けました。
 ビーバーは自発的にすみかから出てきて、林の中や道沿いで気に入った木を見つけると、それをかじり倒して、自分で引きずってまたすみかまで戻ります。持ち帰った木は、枝葉を食べたり、樹皮をはがして巣に敷いたり、思い思いの方法で使用します。水の流れのある別の池まで出かけることもあり、そこでは木の枝や泥を集めて水流を止めてダムをつくろうとする行動も観察されました。シンプルなようですが、「逆転の発想」ともいえるアイディアと決断力を高く評価します。
 これにより、ビーバーに特有の行動を引き出す環境と機会を与え、行動レパートリーが増えたことは明らかです。今後の課題として、それが具体的にどのようなプラスの効果を生んでいるのか、何らかの形で客観的に提示されることを期待します。「園全体をビーバーのすむ森にしたい」という夢が実現する日も遠くないかもしれません。今後の展開が楽しみな取り組みです。

長崎バイオパーク
https://www.biopark.co.jp/
〒851-3302 長崎県西海市西彼町中山郷2291ー1
TEL:0959-27-1090

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奨励賞

おたる水族館
「バンドウイルカへのまき餌」

 イルカをはじめとする鯨類の飼育およびショーに関しては、世界的にも大きな変革の時期を迎えています。そのような中で、この取り組みは、これまでの日本のイルカ飼育について関係者や市民が考え直すきっかけになるものであると評価しました。
 多くの日本の水族館においてイルカはショーを中心として飼育されており、給餌はショーおよびトレーニングの一環で行われるケースがほとんどです。おたる水族館は「ショー以外でもイルカに生き生きとした行動を取ってもらいたい」という思いから、ショーやトレーニング時に使用しなかったエサの魚をプールにばら撒くという取り組みを始め、少なからず野生に近いイルカの行動を発現させることに成功しました。また、「まき餌」以外にも消防ホースや漁業用ブイを利用したフィーダーに魚を隠し、採食時間を延ばすことにも取り組んでいます。動物園ではこうした取り組みは従前から見られるもので、目新しさは感じられないかもしれません。ところが、「イルカのエサは人が手から与える」「誤飲等の事故を防ぐためになるべくプールには異物を入れない」という不文律が浸透している日本の水族館においては、大変チャレンジングな取り組みといえます。
 野生のイルカは、広大な海の中で頭と身体を使いながら魚を追いかけて食べる捕食動物です。今後も日本の水族館でイルカを飼育し続けるためには、そうした本来の行動に近づける努力が必要でしょう。 この取り組みが日本のイルカ飼育の未来を変えるひとつのきっかけになることを願いつつ、今後の広がりに期待します。

おたる水族館
https://otaru-aq.jp/
〒047-0047 北海道小樽市祝津3丁目303
TEL:0134-33-1400

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正田賞

熊本市動植物園
「サステイナブルな笹の利用を可能にした関連団体とのネットワーク」

 近年、竹林の繁茂は農林業の分野で大きな問題になっています。熊本県では国の事業の一環で多くの竹が伐採されていますが、伐採後の竹の処理に困っている現状がありました。
 一方、熊本市動植物園では2022年にレッサーパンダを新たに飼育し始めるにあたり、エサとなる笹の安定した供給方法を模索していました。熊本県森林組合連合会に相談したところ、伐採した笹(※)を園へ提供することで資源活用できるのではないかと提案があり、その結果、現在は4 団体から協力を得て、笹の安定した供給が実現しました。朝採れの笹はレッサーパンダをはじめゾウ・サイ・カピバラ等の他の動物にも与えられており、それぞれの福祉向上につながっています。 特にレッサーパンダにおいては、部位や鮮度の異なる笹を常時給餌できることで、個体に与えられる選択肢を増やし、それが体重の健康的な季節変動や繁殖の成功につながっている可能性も示唆されました。
 全国的に問題となっている竹林整備の問題が動物園の問題とうまく合致し、両方にとって大きなメリットを生み出すことにつながりました。こういったネットワーク形成、すなわち人と人とのつながりが動物園を良くしていくことは市民ZOOネットワークの目標でもあり、今年の正田賞にふさわしいと評価しました。これまでになかった未開拓分野への進出であり、他園館にも影響を与える取り組みとなるでしょう。
 (※ここでは同園での慣用に従って、動物に与える孟宗竹の枝葉のことを「笹」と表現しています。)

熊本市動植物園
https://www.ezooko.jp/
〒862-0911 熊本県熊本市東区健軍5丁目14ー2
TEL:096-368-4416

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 市民ZOOネットワークでは、環境エンリッチメントの試みを、市民が理解し、評価し、応援する社会づくりを目指し、今後もエンリッチメント大賞を継続していきたいと思っています。

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