犬や猫などのペット/コンパニオンアニマルであっても、生き物を飼育することは非常に大変ですが、動物園で飼育しているのは、長年人間に飼いならされてきた家畜やペットではなく、野生動物。その飼育が難しいのは当然ですよね。近年では、地球上の様々な場所で野生動物の研究がなされるようになっていますが、つい数十年前までは野生動物ついての知識も少なく、彼らにどれだけの力があるのかも、何を食べるかも分からないような状態だったのです。そういう状態の中で、野生動物を生息地から連れてくるわけですので、動物園の施設には、動物の予測不能な行動や力を案じて、重い鉄の扉や鉄の格子が使われるようになりました。また、動物園には、多くの人が出入りをするため、感染症の心配もありました。そのため、飼育環境も衛生面を重要視し、掃除や殺菌が簡単にできるように、床や壁にはコンクリートやタイルが使われるようになりました。 その後、野生動物の研究も進み、また、多くの飼育員さんや獣医師さんなどの努力で、動物の病気や動物自体に対する理解も深まりました。動物たちの寿命も延び、動物園生まれの動物も増えました。しかし、「繁殖行動ができない」「子育てができない」などの“繁殖障害”、「脳が正常に発育しない」「正常な体重増加が見られない」などの“発育障害”、「けんかが多い」「異常に相手を攻撃する」といった“社会的問題”、「意味もなく行ったりきたりを繰り返す(常同行動)」「柵をなめ続ける」「不必要に糞を食べたり、尿をなめる」「食べたものを吐き戻す」といった“ 異常行動”はなくなりませんでした。 その原因として、飼育環境の単純さに問題があるのではないかと考えられるようになりました。つまり、先ほど説明したような、野生動物を理解していなかった時につくられたコンクリートやタイルでできた掃除のしやすい施設だったり、病気をしないように決められた時間に食べやすいように工夫して与えられる餌だったり、という飼育環境は、動物たちにとって、退屈で、変化がないものだったのです。そこで、飼育環境に様々な工夫を凝らすことにより、動物たちの暮らしを豊かにする試みである環境エンリッチメントが注目をされるようになったのです。 しかし、実はこれまでも飼育の現場では、環境エンリッチメント的なことはおこなわれてきました。例えば、水が飲みやすいように高さを工夫したり、園内で伐採した枝を入れたり・・・。「動物たちが少しでも快適に毎日をすごせるように」という飼育員さんの気持ちによって重ねられた工夫の数々・・・それこそが環境エンリッチメントなのです。