Overview

総評

12回目の開催となるエンリッチメント大賞2013、多くのご支援のもと、今年も大賞が決定しました。今年は全国から50件の取り組みに対して58通の応募があり、そのうち10件が一次審査(書類審査)を通過しました。

一次審査を通過した取り組みについては、市民ZOOネットワークのエンリッチメント大賞スタッフによる現地訪問や、関係者にインタビューを実施するなどの追加調査をおこないました。その結果をもとに、9月28日に審査委員会(二次審査)が開催され、3件が大賞に選ばれました。

今回受賞した取り組み3件からは、動物のために、その生活環境をより良いものにしようという意欲と熱意が感じられました。そのために、現状をよく理解したうえで、従来の問題点を把握し、それぞれに対する具体的な対処法や改善策を立てているという姿勢が評価されました。今回受賞した取り組みは、「自然の利用」「トレーニングの導入」「混合飼育」といった、エンリッチメントの一環として定着しつつある手法を、うまく利用したものだと言えます。しかし、こういった手法は、トラブルや事故の原因となったり、来園者への誤解が生じたり、動物と来園者や飼育担当者との適切な距離を保たなければいけないことなど、難しい問題を生じることもあります。受賞した3件は、手法の正しい理解のもとに、これまでに得た知識や経験、技術を十分に活用し、新しい取り組みを構築している点が評価されました。

Winners

受賞した取り組み

大賞

長崎ペンギン水族館長崎県

ふれあいペンギンビーチ

「ペンギンが海を泳ぐ」という、当たり前の状況を飼育環境下で作り出した日本初の試みが評価されました。エンリッチメントの目標の一つに、自然に似せた機能を再現する、というものが挙げられますが、ここでは“自然そのもの”を利用しました。動物が快適に過ごせるための施設や体制づくりが実現している取り組みです。

2001年に水族館が現在の海沿いの場所に移転した当時から、「ペンギンを海で泳がせたい」という夢がありました。水族館に隣接する沿岸部分をネットと柵で囲い、砂浜のある入り江部分を「ふれあいペンギンビーチ」として、2009年7月にオープンしました。このビーチを利用するのは温帯に生息するフンボルトペンギンです。同館で暮らす67羽のうち老齢の個体などを除いた59羽から、毎日10数羽ずつが交代で出てきます。ビーチに出る個体は、その日の各個体の“希望”と体調、館内の展示とのバランスに応じ、担当者が毎日調整しています。その日のビーチ開始時間になると、飼育担当者の付き添いのもと、ペンギンたちは館内の展示場からビーチまで100mほど歩いて向かいます。それから数時間、ペンギンたちはビーチで自由に過ごし、終了時間になると担当者の誘導に従い、必ず館内のプールに戻ってきます。

飼育下のペンギンでは、歩行や遊泳ができる空間が制限されているため、運動不足や、それが原因の一つにもなる趾瘤症などの問題が起こりがちですが、ここでは見られません。また、飼育下ではめったに観察されない、海岸の波打ち際を早く移動する際におこなう、フリッパーを用いた“四足歩行”や、ビーチ内に侵入してきた魚を探索・捕食する行動が見られます。このように、行動の多様性を引き出し、運動量を増加させることで、健康面での改善ができました。

これまでの4年間、大きなトラブルや事故などもなく、継続してきた実績も大きく評価されました。来館者との適切な距離が保たれていることと、監視体制が整えられ、観察結果に基づく研究成果を飼育にフィードバックしていることの成果であると考えられます。今後も、ペンギンと来園者双方にとって、快適な空間であり続けることを期待します。

長崎ペンギン水族館

(ながさき ぺんぎん すいぞくかん)

所在地
〒851-0121 長崎県長崎市宿町3番地16
TEL
095-838-3131
Winner's Voice

受賞の声 ―

この度は、光栄なる「エンリッチメント大賞2013」」を賜り、関係各位に有難く感謝申し上げます。長崎ペンギン水族館は2001年にペンギンに特化した施設として開館し、2004年には、自然体験ゾーン海浜部が併設されました。この海浜部を活用し、2009年7月に“世界初!自然の海でペンギンが泳ぐ”「ふれあいペンギンビーチ」が完成しました。大きな自然石を積み上げたU字型の護岸の両側突堤にペンギンが外海へ逃げないようネットを張ったシンプルな施設です。翌年には「観察・餌やり体験ステージ」が整備され、ペンギンの海での行動がより観察できるようになりました。長崎生まれの野生を知らないフンボルトペンギン10数羽が、10時30分に館内の飼育場より約100mの距離を歩いてビーチへ到着し、15時になると飼育場へ帰ります。

この構想は、水族館建設計画の際にペンギンを海で飼育できたら、どんなに素晴しいだろう!と話していたことが現実的なものとなり、事故等もなく4年が経過しました。

何と言っても自然の海であるために、毎日の干満時刻や潮位が変化し、ネットの隙間からは、イワシなどの小魚も入り込むため、ペンギンたちは嬉しそうにイルカ泳ぎや潜水行動を見せてくれます。また、波打ち際ではコミカルな四足歩行も観察できます。

野生のフンボルトペンギンは朝から海へ出て、摂餌して夕方に巣に戻るパターンで生活し、ふれあいペンギンビーチのペンギンたちと共通点があるものと感じております。

自然豊かな環境でペンギンも観客もゆったりとした時間を共有していただければ幸いです。今回の受賞を励みとして、ペンギンたちが元気で快適に生活できるようスタッフ一同努めて参ります。

長崎ペンギン水族館 館長 楠田 幸雄

大賞

秋田市大森山動物園秋田県

キリンのための飼育管理

キリンの飼育管理をより良いものにするために、飼育下での問題点を正しくとらえ、問題解決のために、トレーニングの手法を取り入れるなど、それぞれに対する丁寧で具体的な改善策が実施された取り組みです。

キリンは本来、起きている時間のほとんど(8〜12時間)を、樹の枝葉を採食して過ごす動物で、採食時間の不足により柵舐めや舌遊びなどの行動が発現することが知られています。そこで、採食時間の延長のため、2011年より主食を枝葉中心のメニューに変更しました。この結果、1日の採食時間が大幅に延び、本来の行動パターンに近づけることができました。また、従来のイネ科植物を中心とした給餌内容では歯が過剰に摩耗し、虫歯や採食不良になる傾向がありましたが、それが軽減し、健康上の改善も見られました。

臆病で繊細な性格から、環境適応が不十分な場合、何かに驚いて事故が起こった例も少なくありません。その対策として、担当者以外の人やトラクターなどの重機といった飼育下で接しうるあらゆる存在を、好物の餌などの強化子と一緒に提示し、脅威の対象ではないということを教えるなど馴致を施しています。また、個体にストレスをかけることなく、誘導や健康管理を実施する方法としてオペラント条件付けに基づく正の強化トレーニングを取り入れ、採血や体温測定などをおこなうことも可能となりました。飼育下では、歩行距離を確保することが難しく、蹄が伸びすぎてしまい、それが原因となって脚を痛めるという問題もありますが、トレーニングによる蹄のケアも実施しています。トレーニングを正しく利用し、環境適応を促したり、健康管理に考慮したりしています。

このような、具体的な取り組みを丁寧に積み重ねていることが、今回の評価のポイントとなりました。今後は、キリンの社会性を満たすための群れでの飼育や、自発的な移動をうながし歩行距離を増加させる工夫など、より本質的な飼育環境の向上に取り組まれることを期待します。

秋田市大森山動物園

(あきたし おおもりやま どうぶつえん)

所在地
〒010-1654 秋田県秋田市浜田字潟端154
TEL
018-828-5508
Winner's Voice

受賞の声 ―

この度は、栄誉あるエンリッチメント大賞をいただきありがとうございます。

大森山動物園は今年9月に開園40周年を迎えました。これに今回の受賞が重なり、さらに記念すべき年となりました。

私は2011年4月、9年ぶりにキリン担当となりました。以前最後に担当した個体は物語ともなった「義足のキリンたいよう」。当時は、何もできない自分に対する歯がゆさに震える毎日でしたが、従来のキリンの飼育のあり方について考えはじめるきっかけになりました。大型動物のキリンに対して、「何もできない」ではなく、「人との関わりの重要性」、「事故を限りなくゼロに近づける努力」さらには「ゾウと同等の健康管理の必要性」を強く感じ、同じ後悔を二度と繰り返したくないと思いました。キリン飼育からしばらく離れた後、再び担当になってから、キリンの飼育管理そのものを見直すため、思いを巡らしました。「可能な限りストレスを与えない飼育管理」、「枝葉をできるだけ多給する努力」、そして「ハズバンダリー・トレーニングの導入」です。

キリンの担当に戻った時、ジュン(故オス18歳)の前肢はあきらかな過長蹄で、少しずつ関節に影響を及ぼしていました。触ることからはじめ、馴致を開始しましたが、削蹄することができないまま、ジュンは6月に亡くなってしまいました。蹄を削ることができたのは、死して横たわった後でした。しかし、ジュンは「キリンの蹄の柔らかいこと」を教えてくれ、私はヤスリによるケアが可能であると確信しました。また、歯の著しい摩耗が確認され、給餌のあり方も深く考えさせられました。

過去のキリンたちの死は私の経験となり、今飼育している個体に対しどう接すべきか示してくれたことで、キリン飼育員としてこの後すべきことは明白でした。過長蹄の情報収集をする中で出会った他園の技術者に指導してもらいながら、オペラント条件付けによるトレーニングの勉強、手探りでの実践を開始しました。想定を超えるスピードでトレーニングの成果が現れ、今では飼育しているオス、メスの蹄のケアのほか、メスのリンリン(8歳)は定期採血もできるようになり、これまで1年半ほど継続しています。

「動物と語らう森」をテーマとし、人と動物とのいい関係を構築することを大事にする大森山動物園では、3人の飼育員「Teamキリン(泉弘美 舘岡幸枝 柴田典弘)」が、これらの飼育管理を徹底しています。キリンの幸せを追及する活動の中には、一人では決してできないことも含まれています。キリン飼育をチームで行なうことを後押ししてくれた組織、私たちの活動を日頃からあたたかく見守って下さっている全国の動物園関係者や動物園ファンの方々の支えがあって、ここまで来ることができました。皆様に心より感謝申し上げます。

秋田市大森山動物園 飼育員 柴田 典弘

大賞

福岡市動物園福岡県

オランウータンとシロテテナガザルの混合飼育

複数の動物種を同じ空間で飼育する「混合飼育」への挑戦に対する授賞です。野生の環境では、動物たちは異種との接触を繰り返しながら生活しています。しかし動物園ではそれぞれの種を個別に飼育することが多く、異種間での相互作用、例えば互いに助け合ったり警戒したりするような社会的刺激は不足しがちです。そのような刺激を飼育下にも再現した、混合飼育による社会的エンリッチメントの取り組みとして評価されました。

福岡市動物園では、2012年の「アジア熱帯の森」のリニューアルの際に、オランウータンとテナガザルの混合飼育を始めました。同所的に生息することもあるこの2種の混合飼育は、海外の複数の動物園ですでに実践されていますが、日本では初めての挑戦です。異なる種どうしで一緒に遊ぶなどのコミュニケーションや、適度な緊張感が生まれ、良好な社会的刺激が生じていることが確認されています。

混合飼育の別の利点として、敷地・空間の有効活用が挙げられます。ここでは、2種の屋外放飼場を複合することにより共有部分を365㎡の広さで確保することができました。特にテナガザルにとっては、国内では放飼場のこのような広さはあまり例がありません。広大な放飼場には、樹上生活に適応したそれぞれの身体的特徴を引き出せるような、15mのタワーやロープジャングルなどが設けられました。この設計は、ボルネオの熱帯雨林を実際に見てきた飼育担当者と、施設担当者との連携によりおこなわれ、ミニチュアの模型によるシミュレーションのもとデザインしたという熱意も込められています。さらに、体の小さなテナガザルのための専用放飼場や、オランウータン専用のサブパドックなど、プライベート空間を用意する配慮もなされています。

今回の取り組みでは、混合飼育の利点を生かし、それぞれの種の魅力を引き出した点が評価されました。動物の幸せが自然と伝わってくるような飼育を実現しています。このような取り組みには、飼育担当者が十分に観察をおこない各個体の性格や関係性をよく理解しておくことと、福祉や安全性に配慮した施設計画の両方が必要です。そのような飼育管理方法をサポートできる体制のもと、今後も安全で有意義な混合飼育が継続されることを期待します。

福岡市動物園

(ふくおかし どうぶつえん)

所在地
〒810-0037 福岡県福岡市中央区南公園1-1
TEL
092-531-1960
Winner's Voice

受賞の声 ―

この度、エンリッチメント大賞に選考いただきありがとうございます。

当園では平成18年度より「福岡市動植物園再生事業」を開始し、20年かけてリニューアルを進めております。その中で今回受賞をいただきました「オランウータンとシロテテナガザルの混合飼育」は、今年9月に完成しました「アジア熱帯の渓谷エリア」の第2弾として平成24年秋にオープンしました。約450㎡の屋外放飼場で遊ぶシロテテナガザルとオランウータンを、屋外の広々としたデッキや大きなガラスの前などいろいろな角度で見ることができ、多くの来園者の方々に喜んでいただいております。とくに4本のタワーを結ぶロープは、担当飼育員がオランウータンの生息するボルネオ島の森を実際に訪れ、オランウータンの動きや森の様子からイメージして作成したもので、オランウータンとシロテテナガザルの運動能力の高さを感じることのできるものになっています。

当園では今後も、「アフリカの草原エリア」や「日本の自然エリア」、「バードガーデンエリア」などリニューアルを続けてまいりますが、今回の受賞を糧として、来園者の方々がわくわくするような、また動物たちにとっても幸福に暮らしていけるような取り組みを続けてまいりたいと思います。

最後になりましたが、関係者の皆様にはこれまでのご支援ご協力に感謝申し上げますとともに、今後ともさらなるご指導並びにご教示を賜りますようお願い申し上げます。

福岡市動物園

園長 樋脇 弘

このたびはエンリッチメント大賞をいただき、とてもありがたく、またうれしく思っています。

オランウータンとテナガザルの混合飼育は海外の動物園ではすでに行われていますが、日本では初めてのことで、特に施設面では苦心しました。今のところ大きなトラブルもなく、混合飼育開始から1年を迎えることができました。(動物の体調不良はありましたが…)

あまり動かないオランウータンと俊敏なテナガザルが同居することで、広い運動場を有効に利用することができ、退屈することのない展示ができていると感じています。15mの高さにあるロープを渡る姿には、身軽に渡るテナガザルにはもちろん、ゆっくり渡るオランウータンでも来園者は釘付けです。

今回の受賞の立役者は、心やさしいボルネオオランウータンのユキとやんちゃ盛りのシロテテナガザルのタキです。この2頭のやりとりは見ている側に癒しと笑いと驚きを与えてくれます。もちろん他の個体もそれぞれにいい味を出しており、来園者に喜んでいただいていますし、私も毎日楽しませてもらっています。

今後も動物たちが健やかに過ごせるよう努めてまいります。

また混合飼育と獣舎建設にあたり、オランウータンの飼育・研究に関わる多くの方々からアドバイスをいただきました。獣舎建設では無理難題に応じてくださった関係者の方々、本当にありがとうございました。この場をお借りして深く感謝いたします!

福岡市動物園 担当飼育員 伊藤 姿子

Session Data

2013年の開催データ

募集期間
2013年5月1日 〜 6月30日
応募総数
58通(50件の取り組みに対し)
審査方法
下記の審査委員による一次審査(書類)、二次審査(追加調査をもとにした審査委員会)により選定。

審査委員(五十音順)

  • 岩田 惠里いわき明星大学 准教授
  • 川端 裕人作家
  • 幸島 司郎京都大学野生動物研究センター 教授
  • 正田 陽一東京大学 名誉教授
  • 松沢 哲郎京都大学霊長類研究所 教授